命、延らえますよう…(天石門別八倉比賣神社)

阿波では古事記に登場する神代の神々が、それぞれの場所、それぞれの祭祀を行いながら今に伝承されてきました。
その中で天照大御神を拝する場合に限り、
「命延らえますよう… 」
と唱えるのが習わしでありました。
それ故、この天照大御神を祀る天石門別八倉比賣神宮の鎮座地周辺には「延命(えんめい)」という地名がつけられています。

天照大御神、またの名を大日孁命(おおひるめのむち)。
大日孁命は人の命をも支配する女神と考えられていました。
そして、この天石門別八倉比賣神宮の神紋は「柏の葉を二枚ならべた紋」を用いていますがこの神紋において、当社のみに限られたしきたりがあったのです。

命を延らえたかった古代人は、倭の平山(阿讃山脈の山すそ)の柏の葉を髪に飾り、
「我、命延らえますよう…」
と願いを込めた言魂(ことだま)の歌をうたうのです。
命の 全 けむ人は 畳薦 平群 の山の 熊白橿 が葉を 髻華 に挿せ その子
【通釈】俺の命はもう長くない。故郷の土を踏むこともないだろう。しかし、無事生き長らえ倭に辿り着いた者は、平群の山の大きい樫(柏)の葉を、髪に挿して飾れ。いいかお前たち。忘れるなよ。
【語釈】◇命の 全けむ人は 命が完全であろう人は。
◇畳薦 「平群」にかかる枕詞。
◇平群の山 阿讃山脈の山すそ。
◇髻華 髪や冠に木の葉や花を挿したもの。植物の生命力を自らに付着させるための呪物。
◇その子 そこにいた従者たちを指す。「子」は親しみをこめた呼称。
【補記】「倭は…」に続けて詠んだ歌という。


天石門別八倉比賣神宮は「以西(いせ)皇大神宮」。
天照大御神(大日孁命)は太古の昔よりこの神宮に坐(いましま)す。