awa-otoko’s blog

阿波の神秘的、不思議、面白い場所を記紀や地域伝承と絡めて紹介します

いもじ村の天目一箇命は治水技術も伝承させたのか?

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吉野川にかかる六条大橋北方の上流、高瀬潜水橋の近くに立派な神社が鎮座しています。天津彦根命御子神、天麻宇羅命(あまつまうらのみこと)、天之麻比止都禰命(あまのまひとつねのみこと)とも呼ばれ、天照皇大神が岩戸に隠れたときに刀斧・刀物・鉄鈬など造った鑄工祖神 天目一箇命(あめのひとつのみこと)を祭神とする天目一神社です。

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ここ天目一神社の周辺には古来から多くの鑄物師が生業として生活していました。名工と名高い六右衛門もこの地の人間ということです。

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いもじ村七右衛門知行場
阿部紋右衛門、多田三太夫、田村彌右衛門、東條清左衛門寛政九年十一月◇日御帳の為高瀬村へ御下渡に相成御座候、此地所は舊藩士宇野長治兵衛給地に相當其子孫村山安兵衛代中に被召上御蔵地と相成候、當地處明細は天目一神記録に在亦中輿の御吉例により、享和二戊年前形に倣ひ灯籠鑄直し奉献上、其砌鑄造人六右衛門への御嘉賞の御墨附奉頂戴、亦高瀬村の鑄造始めは天平年中との申傳、往古より鑄職業者天目一神社氏子本村に絶ず引続有之阿波國一圓最も第一農耕器の鍬の鋒鑄造営業者近時處々有之も天保年間迄は高瀬村の特産物に有之是即金物造りの祖神 天目一箇の御徳也。

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その他にもこのような伝承も残されています。

七十六代 近衛天皇の御宇仁平三年癸酉四月、御所の紫宸殿には毎夜となく化け物が現れて異様な鳴き声を発して人心を悩ますことが甚だしかった。帝から退治の命を受けた源三位頼政がこの化け物を射たとき、化け物が騒ぐ風で御殿の灯は殆ど消された。しかし天目一箇命を祖神と仰ぐ鑄物師が鋳造して奉献した灯篭の灯は消えなかったという。

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灯篭などを朝廷に度々献上し、畏くも数度に亘り御綸旨を拝受し、また、朝恩により鑄物師御許状をいただいたりしています。こうした由緒ある天目一神社を崇敬する鑄物師の村ということから、此処を鑄物師(いもじ)村と呼ばれて、高瀬鉾とその名を全国に知らしめていたのでありました。

はい。吉野町の神社をテーマにした投稿の際に少しだけ紹介しました天目一(あめいち)神社。引用にもあるように、かなり古い時代(天平年間以前)から天目一箇命を祖神とする鑄物師集落として全国的にも有名だったようです。

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また、この天目一神社には合祀された祠も境内石碑に記録されている内容をみると、天目一箇命主祭神とされているのは当たり前のことですが、火や金属を連想させる天目一箇命のほかに水の流れを意識させる蛭子神、船戸神が含まれているのがとても興味深い内容だと思います。(それより宮城神と金泉神ってどなた?國中神もいる。)

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鋳造に必要な材料、玉鋼を産みだすタタラ製鉄は六世紀以前に朝鮮から渡ってきたとされています。当社周辺の状況も調べてみると、製鉄技術・鋳造技術と一緒に牛頭天王も入ってきたのか、八坂社、天王社が鬼門方向へきれいに並んでいます。個人的には天目一神社を起点としてスサノオ牛頭天王)で鬼門封じが施されていることがとても気になっている状況です。

f:id:awa-otoko:20170330223204j:image(増水時には宮川内川と吉野川の水流が高志・高瀬に流れ込む)

スサノオの御神威によって霊的に高瀬・高志地域を護っている状況から、スサノオが高志のオロチ(吉野川の水流)を退治(治水)したことに繋げていいのかどうかはわかりませんが、神代より農耕機、武器等が生産された当地において天目一箇命が製鉄・鋳造技術と治水技術も同時に伝えた可能性があることは否定できないと考えます。

高瀬・高志地域の本当の産土神スサノオなのか、伝承通りのアメノマヒトツネ(天目一箇命)なのか、はたまた全く予想だにしない別の神なのか… 今は謎が深まっていくばかりです。こちらについてはまぁまぁ気になっているので高瀬・高志の周辺伝承や地名由来などをさらに広げてこの謎のヒントを探ってみたいと考えています。